広島子どもの心支援ネットワーク第67回研修会

○はじめに

 2022年3月22日(土)に第67回の研修会を行いました。今回のテーマは「愛着障害」。講師は和歌山大学の米澤好史先生にお願いしました。

 近年愛着に課題のある子ども達が増えてきています。そんな子どもをどうアセスメントし、どう支援をするか、とても参考になるお話を聞くことができました。

 

○愛着障害への誤解。

 まずはじめに、愛着障害にまつわる誤解を紹介してもらいました。「愛着に課題がある・・・」と聞くことが多くなってきた近年ですが、そこにはたくさんの誤解があります。いくつか紹介します。

 

 誤解① 施設で育った子どもや虐待を受けた子ども特有のものである。

  →  通常の家庭でもある。

 

 誤解② 産んだ・育てた親のせいであり、もう取り戻せない。

  →  相性・関係性の障害なので親のせいではない。

     また、修復しようと思えばいつでも取り戻せる!

 

 誤解③ 親にしか形成・修復は無理

  →  誰にでも形成・修復可。親以外との関係性構築が親子関係の改善にも繋がる

 

 誰にでも修復ができるからこそ、親以外の子供達に関わる大人が愛着障害について知り、適切に子供達と関わっていくことが大切ですね!

 

 ○愛着とは? 

 そもそも「愛着」とは何でしょうか。米澤先生曰く、

  「特定の人と結ぶ」「情緒的な」「心の絆」

 だそうです。これができていない、または何らかの理由で壊れた人に起こるのが愛着障害だそうです。

 

○愛着形成のための3つの基地機能

 愛着を形成するためには、3つの基地機能を育む必要があると米澤先生はおっしゃっていました。

 

①安全基地 (secure base)

  ネガティブな感情から守ってくれる

 

②安心基地 (reassure restful & relax base) 

 ポジティブな感情を生じさせてくれる 

 

③探索基地 (search base) 

 ①②の存在から離れることができ、精神的自立ができる

 ※この基地は、支援のゴールをわかりやすくするために、①の安全基地から取り出しているそうです。

 

○混合される発達障害 

 愛着障害は発達障害と混合されることがよくあります。それらを見分けるためには、子供の状態を感情・認知・行動に分けて判断することが必要だそうです。

 自閉スペクトラム症は認知面に起因した障害、愛着障害は感情面に起因した障害、ADHDは認知や感情に関係なく、行動面での障害であると捉えるとわかりやすいそうです。

 例えば、落ち着きがない状態について考えてみましょう。

 ADHD・・・いつも落ち着きのない行動→認知・感情に関係なく多動

 

 自閉スペクトラム症・・・急な予定変更など見通しが立たない時→認知が影響する多動

 

 愛着障害・・・落ち着きのなさにムラがある→感情が影響する多動

 

 このように整理して判断することができるそうです。子どもの様子からしっかりアセスメントし、子どもに合った支援策を考えていきたいですね。

 

○愛着障害の3大特徴

 子供の様子から愛着障害があるかどうかをアセスメントする際には、さらに参考になる情報があります。米澤先生は3大特徴と言っていました。1つずつ見ていきましょう。

  

1、愛情欲求行動・・・安心基地の問題

 ・アピール行動をいっぱいするそうです。静かな時にあえて声を出すのはわかりやすい例だそうです。時には自作自演の事件まで起こすこともあります。

 ・愛情ためし行動もあります。相手によって行動の違いが生まれます。そのため、家と学校で行動が変わることもあるそうです。最終試験のような意味合いで、試し行動が2度あることもあるそうです。

 ・愛情欲求エスカレート現象も起こるそうです。現状の要求に応えるだけでは満足できず、その要求がエスカレートしていってしまうことがあるそうです。

 

2、自己防衛・・・安全基地の問題 

 自分の非を認めないことがあったり、他責・被害的になることが多いようです。

 そんなとき、真正面からの対応をしてはいけないそうです。追い詰めるように非を認めさせる対応をするのではなく、守ってくれるんだと思えるような対応をすることが大切だそうです。

 

3、自己評価の低さ・・・探索基地 

 成功体験の少なさや、学習性無力感などから自己否定をしていたり、そんな自分を認めないために自己高揚的であったりすることがあるそうです。優れていることへの憧れから、力で優位に立とうとし、命令や支配をしてしまうこともあるようです。いじめの加害者によくいるそうです。

 

○参加者の事例を使った対談

 後半には参加者からの質問をもとに、米澤先生と栗原先生の対談がありました。その内容をいくつか紹介します。

 

Q1、3つの基地はどの順番で支援していけばいいですか。

 →  安心 →  安全 →  探索 の順番

 

Q2、学校で攻撃行動を起こす子どもにどう関わればいいですか。

 → 攻撃行動を他の行動にそらす・置き換えられるように関わっていく。 また、問題行動が起きたときにだけ関わるのではなく、普段から関わることが大切。

    学校のルールをスタートとし、子供をそこに当てはめようとするとダメ。

    後からトラブルが起きてから対応に迫られると徒労感。疲弊感。事前に対応をしていこう。

 

Q3、他の子供も愛情行動を求めてくる場合どうすればいいか

   → ・どの子からどんな風な関わりをするかシナリオを作ることが大事。どこの子にも要求を答えようとすると身動きが取れない。

   → 役割を与えると、担任がいないときにも良い行動が生まれる

   ・複数の教員で関わることも大切。教員同士で役割を分担する。何の目的で誰を支援するために入るのか。誰との関わりを強めるためのものなのかを整理して関わることが必要。

   ・3軍をデビューさせない意識も大切。そのためにまずは2軍を満足させる。そのための取り組みを。その後1軍をあてにしていく。

  ・2軍には集団の中での取り組みを行い、1軍へは個別の時間を別途取って支援をする。

 

 

○おわりに

 今回の研修会では、米澤先生のご講演を通じて、愛着障害についての理解を深めることができました。どんな支援にも共通することですが、子供の状態からアセスメントをし、仮説を立てた上でそれに合う支援を試行錯誤していくことが大切だと感じました。そのための新しい視点をいただける、とても貴重な研修会になりました。

 次回は令和4年度1回目の第68回研修会が5月にあります。ぜひご参加ください。